店長story 5《弁護士》
〇前回までの店長story 4はこちら
2012年、夏の朝
主人と二人で湯婆婆さまを
迎えに行きました。
天気も良く気持ちのいい朝なのに、
私たち二人はどんより群青色の海のよう。
「おはようございますぅ~」
とゆっくり引き戸を開けると、
玄関に湯婆婆さまが待っていました。
札幌の弁護士さんへのお土産らしい、
野菜や果物、お菓子等々を
脇に抱えていました。
湯婆婆さまとお土産を車に乗せ、
いざ、札幌へ5時間の旅… 出発です。
ここ2日間くらい寝ていない私でしたが、
湯婆婆さまの話(ほとんど世間話)に
相槌を打ちながら、
なんとか失礼をせずに
札幌へ到着することが出来ました。
立派なビルの駐車場に
車を止め、豪華な事務所の
エントランスに入っていきました。
キレイな受付嬢二人に迎えられ、
事務所の方々と軽く挨拶をしました。
湯婆婆さまは違う階の特別室に案内され、
私たち夫婦はエントランスのソファで
待つことになりました。
なんか場違いな二人で
身を寄せ合っているとお声がかかり、
いくつもある部屋の一つに案内されました。
座って待っているように言われました。
しばらくして私たちが入ってきたドアとは
違う扉が開き、スーツ姿の弁護士一団が
颯爽と入ってきました。
昆布の里、尾札部町にいると、
夏は白のランニングとカッパ姿の
老若男女しか見ないので
スーツを着ている人を見るだけで、
ちょいビビります。
(・・・あれ、先頭の人、禿げてる!?)
私はまだ心の隅に余裕がありました。
少しだけ親近感が湧きました。
実名を挙げるのを避けたいので、
ここからはトップ弁護士さんを
「臼山弁護士」と呼ぶことにします。
臼山弁護士の両サイドには
若手弁護士2名が座りました。
左側にはペンをくるくる回しながら
斜め姿勢でこちらに挨拶をする
「俺ってかっこいい系弁護士」
と思っていそうな
ナルシスト弁護士の左大臣。
右側には、まるで
「THE 歩く憲法」
と言わんばかりの
超真面目そうな弁護士の右大臣。
ようするに、
両大臣、どちらも、「濃いっ」。
「親父はどうした?」
と聞かれたので、体調が悪い為
私たち二人で来たと話しました。
臼山弁護士の話では半年以上前から
話し合いをしているらしいが、
現状報告や社長として
どうしていきたいのか等々、
全く話が進んでいなかったようで、
ちょっとお怒りでした。
昨日まで義父母と主人や
社員の方と話した内容を伝えました。
また、今後の展開として
縮小する場合や民事再生を受ける際の
会社の状況などを話しました。
詳しい内容や話した順序は
覚えていませんが、
今の状態、これからのストーリーを
淡々と話していたと思います。
「なんでわかるんだ!?
YOUは以前何をしていた?」
と突然、臼山弁護士に質問されました。
ネットで民事再生や国の支援制度等について
調べましたし会社の継続が困難になった方や
復活された方のお話も
ネットで書いていたのを読み、
自分たちがたどるストーリーは
何個かその時点で想定していました。
私たちに、もたもたしている
時間はないんです。
修復不可能な傷をさらに
広げるだけの事業を続けること、、、
その先を考えると恐ろしいです。
どれだけ、縮小したら経営が続けられ、
膨らんだ負債を返していけるのか。
金融機関や民間の取引業者さんへの
支払いを滞ることもできません。
商売をやっていく上で、昔からの取引先や
町内の取引先に迷惑をかけることは
絶対避けなければなりませんし、
支払いを滞ったまま、継続又は倒産した場合
どちらにしてもこの小さな漁村では
生きていけません。
夜逃げ同然の悲しい結末が
頭をよぎります。
臼山弁護士と話し合い、
切り離す工場、在庫商品、資金繰りを
再度検討し提出するように言われました。
その後、公認会計士と
話を詰めようという事になりました。
決断をしていかなければなりません。
父は自分の肉がちぎれる思いだろう。
私はその痛みがわからない分、
冷静でいられる。
湯婆婆さまは大きなお風呂も
付いたホテルのようなお部屋で
しばらく寛ぎ、
法律事務所の方々とお話をされ、
私たちの面談を待っていてくれました。
湯婆婆さま、ありがとう。
帰り道、湯婆婆さまを降ろした後、
主人と話し合い、
父と母を支え
なんとかこの状況が少しでも
良い方向へ向かうように
頑張ろうと二人で
話し合い決心しました。
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次回の「店長story 6」
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辛いことも多かったですが、
自分の人生の舵取りをする為に
必要な経験をたくさんしたと思います。
この店長STORYは
昔の暗い話ばかりが続きますが
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